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IN Cell User's Day 2009 講演要旨

細胞死シグナルの可視化

京都大学生命科学研究科 酒巻和弘

細胞死(アポトーシス)は、発生の形態形成や器官形成過程において、或いは成体の恒常性維持のために必要不可欠な生命現象である。アポトーシスのシグナル伝達経路では、カスパーゼ(caspase)と総称されたシステイン-プロテアーゼが実行因子として働くことが知られている。カスパーゼ8は、細胞表層にあるデス-レセプター(death receptor)を介するアポトーシス誘導シグナルに必須な分子で、カスパーゼ-カスケードの最上流に位置する。レセプターを介して活性化したカスパーゼ8が下流のカスパーゼ3を切断・活性化することにより、アポトーシスのシグナルが伝播されて細胞が死に至る。我々は、細胞イメージング技術と蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)の原理を応用し、アポトーシス誘導時におけるカスパーゼ8及びカスパーゼ3の活性化状態を生きた細胞でモニターする手法を確立した。この手法を用いることで、両カスパーゼの変動を経時的に観察することが可能となり、細胞死のシグナル経路を可視化できるようになった。我々はさらに3色の蛍光タンパク質を使った“dual-FRET system”を立ち上げ、1細胞で2種類のカスパーゼの活性を同時に可視化することに成功した。デス-レセプターを介するアポトーシス誘導シグナルでは、カスパーゼ8は2段階的な活性を示し、カスパーゼ3は指数関数的な活性化パターンとなることが判明した。また可視化システムは、シグナルの変動を数値として表すことができるため、実反応に即した数理モデルの作成を可能にした。

アポトーシスの過程では、カスパーゼによるタンパク質分解反応の促進とともに細胞のドラスティックな形態変化が並行して進行する。細胞死の刺激を受けた細胞は、細胞萎縮(cell shrinkage)が起こり、その後複数の小胞が形成される。細胞萎縮は、カリウムイオンの細胞外放出が引き金となっていることが知られている。我々は、可視化システムによって見出した、ポジティブ-フィードバックによるカスパーゼ8の活性化と細胞萎縮が連動していることから、カスパーゼ8によって切断された(未同定の)標的分子が形態変化を引き起こしている可能性を考えた。我々はデータベースを検索し、カリウムイオン-チャネルの一種THIK-1に着目した。THIK-1は、細胞内領域にカスパーゼ8の認識配列を有しており、カスパーゼ8の標的分子となる可能性が考えられた。アポトーシス刺激を行うと、正常なTHIK-1を過剰に発現する培養細胞は、非切断型のTHIK-1変異体を発現する培養細胞に比べて細胞萎縮が促進すること、RNA干渉法によってTHIK-1の発現を抑制した細胞は、正常な細胞に比べ細胞収縮が遅延することを認めた。その他の詳細な解析結果を基に、我々はTHIK-1がカスパーゼ8の標的分子であり、切断されたTHIK-1により細胞萎縮が促進すると結論した。

細胞萎縮の後に続く小胞化(membrane blebbing)の分子機構についても不明な点が多かった。我々は、細胞膜を蛍光標識し顕微鏡下で細胞を観察することにより、アポトーシスの刺激を受けた細胞が多数の小胞を形成しながら徐々に縮小することを認め、小胞形成のダイナミズムをイメージングすることができた。さらにボリューム-レンダリング処理により、連続画像データを3次元的に構築することで、各々の小胞が膨張と縮小を繰り返していることを新たな細胞動態として見出した。

このように、アポトーシスの過程で起きる細胞内の様々な出来事について、それに関わる分子の変動を捉えイメージングすることにより、視覚的に呈示することが可能となってきた。このようなアプローチは、細胞死という高次生命現象に関して新たな知見をもたらすとともに、生命現象をコンピュータ上に再現させることが決して不可能ではないことを強く示唆している。


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